【AIレポート第5弾5章】戦略の危機がP&Lの危機になるまで
これまでの四つの物語には、共通点があった。業績が悪化し、危機が目に見える形で現れていた。売上が落ちた。利益が消えた。取引先が離れた。数字が赤くなった。
しかし、最も危険な崩壊は、数字が赤くならない会社で起きる。
ある会社の話をしよう。
創業は100年前後。歴史ある海外ブランドの権利を保有し、国内市場を中心にビジネスを展開していた。ライセンス供与、自社グループでの企画・生産・販売、海外への展開——事業の柱は複数あった。
そしてこの会社には、同業他社が羨むものがあった。
キャッシュだ。
堅実な財務体質。自己資本比率は高く、本業以外の安定収益がキャッシュフローを下支えしていた。ファッション事業に波があっても、全体の決算は黒字を維持できる構造だった。
決算書だけを見れば、この会社はアパレル業界の中で際立って健全だった。赤字の年はない。配当は安定している。株主から見れば「堅実な経営」そのものだった。
しかし、その堅実さの裏側で、本業は静かに、しかし確実に空洞化していた。
この会社のファッション事業は、SPAのように自社で企画・生産・販売を一気通貫で行うモデルではなかった。ブランドの権利を保有し、パートナー企業に企画・生産を委ね、百貨店の売場で販売する。あるいは自社グループで企画したものを、百貨店のインショップに並べる。
この構造には、決定的な弱点があった。エンドユーザーとの距離が遠いのだ。
商品を手に取るのは百貨店の顧客だ。しかし、その顧客がなぜその商品を選んだのか、何と比較して迷ったのか、買わなかった人は何を理由に去ったのか——そのデータは、百貨店のPOSには断片的に残るが、ブランド側が統合的に把握できる形にはなっていなかった——
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