強い企業をつくるのは、人か、仕組みか

海外での経営経験から考える、これからの企業経営
 
インドネシアでシステム開発に携わっていた頃、私はある課題に直面していました。
人件費は日本より安い。しかし、開発したシステムにはバグが多く、日本側のスタッフが確認や修正の指示を繰り返す必要がありました。
コスト面でのメリットは確かにありました。それでも、日本側が細かく確認しなければ品質を維持できない状態では、組織として十分に強いとは言えません。
この経験から、私は企業の強さについて考えるようになりました。
企業の成長を支えるのは、優秀な人材なのでしょうか。それとも、特定の人に頼らず、安定して成果を出せる仕組みなのでしょうか。

経営者が現場を支え続けることの限界
 
当時の開発体制では、日本側が設計や仕様を担当し、インドネシア側が開発とテストを行っていました。
しかし、現地でのテストだけでは十分にバグを発見できず、日本側でも品質を確認する必要がありました。
コミュニケーションにも課題がありました。日本語でやり取りすることが多かったものの、細かい仕様や意図が必ずしも正確に伝わるわけではありません。
私自身も現場に入り、指示や確認を行いました。時には厳しく指導することもありました。
品質を守るためには必要な対応でしたが、問題が起こるたびに日本側が確認し、指示を出す方法には限界があります。
そこで重視していたのが、バグの件数や開発の進捗を確認し、期限を決めて仕事を進めることでした。
ただし、数字を記録するだけで品質が改善するわけではありません。
重要だったのは、社員が実際の開発を経験し、バグが発生した原因を学んでいくことでした。
経験を積むにつれてバグは少しずつ減り、日本側が細かく確認したり、指示したりする負担も以前より軽くなりました。
この経験から、品質を高めるために必要なのは、チェックを増やすことだけではないと感じました。
問題が起きたときに誰かが解決するだけでなく、その経験を次の仕事に生かし、同じ問題が起きにくくなるよう改善していくことが重要なのです。

品質と納期に、常に正しい答えはない

システム開発では、品質と納期の両方が求められます。
しかし、実際の現場では、すべての問題を解決してから納品することが難しい場合もあります。
重要なバグを優先して修正し、軽微な問題は後から対応する。状況によっては、人員を増やしたり、残業で対応したりすることもありました。
品質を優先するべきか、納期を優先するべきか。その答えは、状況によって変わります。
大切なのは、現場で何が起きているのかを把握し、何を優先するべきかを判断することです。
例えば、バグの件数だけでは、開発が順調かどうかはわかりません。
どのような問題なのか。納期にどの程度影響するのか。誰が対応できるのか。
こうした情報を整理することで、より適切な判断ができるようになります。
そして、会社が成長するためには、その判断を経営者や一部の社員だけに頼らない組織をつくることが必要だと考えています。

優秀な社員がいても、強い会社とは限らない

私は、社員が成長することと、会社が強くなることは、必ずしも同じではないと考えています。
経験豊富な社員が問題を解決できるようになっても、その方法を本人しか知らなければ、別の社員が同じ失敗を繰り返すかもしれません。
特定の社員がいなければ仕事が進まない状態では、その人の能力が高いほど、会社はその人に依存することになります。
経営者についても同じです。
会社の立ち上げ期には、経営者自身が現場に入り、問題を解決することも必要です。
しかし、会社が大きくなっても経営者がすべてを判断し続けなければならないなら、売上や社員数が増えていても、組織としては十分に成長していないのかもしれません。
経営者の役割は、目の前の問題を解決することだけではありません。
社員が経験から学び、その知識を共有し、次は自分たちで判断できる環境をつくることも重要です。
一人の能力に頼るのではなく、個人の経験を組織全体の力に変えていく。
そこに、企業が持続的に成長するための重要な要素があると感じています。

システムを導入するだけでは、会社は変わらない

この考え方は、システム開発に限らず、アパレル業界にも共通していると思います。
商品企画、生産、在庫管理、販売。それぞれの部門が情報を持っていても、互いにつながっていなければ、会社全体として適切に判断することは難しくなります。
例えば、売れている商品を追加生産する場合、販売状況だけでなく、現在の在庫や生産の進捗も把握する必要があります。
L-DXのように、企画から生産、在庫、販売までの情報を一元的に管理できるシステムは、こうした判断を支える重要な基盤になります。
ただし、システムを導入すること自体が目的になってはいけません。
インドネシアでの開発でも、バグの件数や進捗を記録すること自体が成果だったわけではありません。
その情報を使って問題に対応し、社員が経験を積み、仕事の進め方を改善していったことに意味がありました。
企業のDXも同じではないでしょうか。
情報を集めるだけでは、会社は変わりません。
集まった情報をもとに、現場の人が判断し、行動を変えられるようになって初めて、システムの価値が生まれるのだと思います。
AIの活用が進むこれからの時代も、重要なのは技術そのものだけでなく、それを組織の判断や行動にどう結びつけるかということです。

人の経験を、会社の力に変える

海外での経営経験を通じて、私は、強い企業をつくるためには人と仕組みの両方が必要だと感じました。
ただし、二つを別々に考えるべきではありません。
どれほど優れた仕組みでも、それを使い、改善する人がいなければ機能しません。一方で、優秀な人材がいても、その経験が個人の中だけにとどまれば、会社は特定の人に頼り続けることになります。
私は、経営者や一部の優秀な社員だけに頼らず、現場が自ら問題を発見し、改善できる組織こそが強い企業だと考えています。
もちろん、そのような組織をつくるのは簡単ではありません。
それでも、経営者が判断しなければ進まない仕事を一つずつ減らし、社員が自ら考え、行動できる環境を整えていく。
その積み重ねが、組織の成長につながるのだと思います。
人の経験を、個人の能力だけで終わらせない。
その経験を組織に残し、次の成長につなげる。
強い企業とは、優秀な人がいる会社だけではなく、人が育つほど、組織そのものも強くなっていく会社ではないでしょうか。

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