「厳正な選定」という茶番:日本企業のDX意思決定が、なぜいつも同じ失敗をするのか

まず、当社が直接見たコンペの話から始める

そのチェーンはRFPを組んだ。複数社を呼び、プレゼンを聞き、スコアリングシートで評価し、選定委員会が承認した。絵に描いたような「厳正なプロセス」だった。

当社の提示金額は25億円。最終的に選ばれたのは大手SIerの提案で、契約金額は約120億円——当社のほぼ5倍だ。

当時、受注できなかった悔しさはある。ただ、決定の論理は理解できた。

「大手SIerなら何かあったときに責任を取れる」。
「金額が大きい方が、規模に見合った体制が組めるはずだ」。
「経営会議で説明しやすいのは、知名度のあるパートナーだ」。

稟議の場で、これらは正当な判断基準として機能する。規模=安心という前提が、組織の重力として静かに作動する。

その後、そのプロジェクトは深く難航した。システム移行直後にECで大規模な出荷障害が発生し、顧客対応が混乱し、業界紙で繰り返し報じられることになった。プロジェクトを主導したリーダーはすでに退任している。

RFPは「厳正な選定」ではなく、「責任の分散装置」だ

RFPという形式が存在する。複数社のプレゼンを聞く。スコアリングシートで評価する。選定委員会が承認する。稟議が通る。一見、厳正なプロセスに見える。しかし実態は「大手を選んだのだから、責任は選定プロセスにある」という責任の分散装置だ。

誰も「この選定は間違いだった」と言えない仕組みになっている。なぜなら、プロセスは正しかったから。プロセスが正しければ、結果に対する個人の責任は問われにくい。これが予定調和の本質だ。

25億のトラブルと、120億のトラブルは、桁で違う

ここで考えてほしい。25億のトラブルは、最大でも25億の損失だ。120億のトラブルは、120億の損失になる。同じ確率でトラブルが起きるなら、25億の方が圧倒的にダメージが小さい。これは当たり前の確率論だが、稟議の場ではほぼ議論されない。「大手だから安全」という前提が、損失額の絶対値を視界から消す。

さらに言えば、復旧速度が決定的に違う。25億のベンダーは、判断レイヤーが浅く、経営者が現場に直接向き合う。問題が起きれば即決断できる。120億のベンダーは、人月で動き、問題はレポートラインを上がってからやっと議題になる。片方は即時対応する。もう片方は、まず会議体を組成する。

売上が低迷しているのに、なぜ100億超の投資をするのか

私が理解できないのは、もう一つ別の点だ。

冒頭で紹介したアパレルチェーンは、近年、業績が芳しくない。EC比率も低く、若年層への訴求でも競合に遅れをとっている。そういう状況のなかで、なぜ100億を超える規模のシステム投資をするのか。

投資の優先順位がおかしい。

売上が伸びていないのに、インフラだけを刷新しても意味がない。顧客が離れているのに、内部システムをAWSに移したところで、顧客は戻ってこない。DXとは、顧客体験を変えるか、ビジネスモデルを変えるか、オペレーションを根本的に効率化するか——いずれかで、事業の未来に貢献するものだ。

システム移行は「手段」だ。その手段を、なぜ最大規模・最大金額で実行したのか。それを問うた人間が、選定プロセスの中にどれだけいたか。

おそらく、「規模感のある投資をしている」という事実が、経営会議での説明を楽にするからだ。「DXに本気で取り組んでいる」という印象を作るためだ。顧客のためでも、事業のためでも、本当の意味ではなかった可能性がある。

これが、予定調和な意思決定の最悪のケースだ。プロセスの正しさが、目的の不在を隠す。

AI・DXは、経営トップの問題だ

「DXは担当部署に任せている」「技術のことはIT部門が詳しいから」——こういう言葉を、経営トップから聞くたびに私は思う。

それは怠慢だ。

業務プロセスを誰が定義するのか。ビジネスモデルを誰が描くのか。投資の優先順位を誰が決めるのか。経営者以外に、誰にもできない。現場はいまのやり方の専門家であって、未来の設計者ではない。

DXを現場に委ねることは、未来の設計を放棄することだ。AIを「便利なツール」として担当者に渡すことは、AIが何を変えうるかを考える責任を放棄することだ。

テクノロジーを理解しようとしない経営者は、ベンダーの言葉を検証する軸を持てない。「この実装には半年かかります」「この連携は技術的に困難です」——それが本当かどうか、判断できない。プロジェクトの主導権は、実質的にベンダーに移る。そしてベンダーは、あなたの事業の未来に責任を負わない。

今日からできること

長く書いた。最後に一つだけ言う。

あなたの会社のDXプロジェクトに、「それをやって、売上はどう変わるのか」という問いを持ち込んでほしい。

システムがきれいになることが目的ではない。クラウド基盤に移ることが目的ではない。事業が良くなること、顧客体験が変わること、利益が出ることが目的だ。

その問いを、RFPの前に立てているか。ベンダーを選ぶ前に答えているか。稟議を通す前に確認しているか。

それを問えるのは、経営者だけだ。現場でも、ベンダーでも、選定委員会でもない。

予定調和な意思決定を止めるのは、プロセスの改善ではない。経営者が、本気で問いを持つことだ。
 
 
平山真也 / L-DX代表
著書『成功に奇策はいらない』(2019年刊)

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