売上の8割を生む「見えている客」の話:アパレル経営者が気づいていない、上顧客20%への集中戦略

季節の変わり目、あなたの店の前を通り過ぎていく人たちを想像してほしい。
 
ウィンドウに目を向ける人、立ち止まってスマホを見る人、ドアを開けて入ってくる人。そのなかで、今期の売上に本当に貢献してくれる人は、何人いるだろうか。
 
先月の売上レポートを見ると、数字はそこそこ出ている。来客数も悪くない。新しいプロモーションも打った。でも、なぜかずっと「薄い手応え」が残っている。
 
そういう経営者に、今日はひとつの問いを投げかけたい。
 
あなたの会社の売上の8割を作っている、上位20%の顧客の名前を言えますか?
  
  
■「パレートの法則」はみんな知っている。でも「見ている」会社は少ない
  
「売上の8割は2割の顧客から生まれる」いわゆるパレートの法則だ。ビジネスの世界では常識として語られる。
 
ではアパレルはどうか。実態はもっと極端なことも珍しくない。
 
年間の購買データを分析すると、上位10~15%の顧客が売上の70~80%を支えているブランドは多い。100人の顧客がいるとすれば、10~15人が会社の屋台骨を支えているのだ。
 
この話をすると、多くの経営者はうなずく。「うちもそうだと思う」と。
  
だが次の質問で止まる人がほとんどだ。
 
「その上位15人は、誰ですか?」
 
名前が出てこない。購買頻度が分からない。どのカテゴリを買っているかも、スタッフに聞かないと把握していない。
 
つまり、存在は知っているが、「見えていない」のだ。
 

コロナが炙り出した「薄利多売モデル」の限界

前回の記事(「2,000社が消える」予測の答え合わせ)でも触れたが、2020年のレポートにはこんな指摘を書いた。
 
コロナによる市場縮小は、単純に「需要が減った」という話ではない。それ以前からじわじわと進んでいた「薄利多売モデルの崩壊」を、パンデミックが一気に可視化したのだと。
 
低単価×高回転ーーたくさんのお客さんに安い服をたくさん買ってもらうという構造は、インターネットとファストファッションの台頭によって、すでに2010年代には機能不全を起こしていた。
 
そこにコロナが来た。集客できなくなり、インバウンドが消え、外出需要が蒸発した。
 
この逆境で生き残った会社の多くが、共通してやっていたことがある。
 
上顧客との関係を、深くしていた。
 
来店頻度が高い、購入単価が高い、ブランドへのロイヤルティが高いーーそういった顧客に対して、スタッフが直接コミュニケーションを取り、個別の提案をし、特別な体験を提供していた。集客数が半減しても、彼らが支えてくれたから、経営が続いた会社がある。
 

「顧客単価を上げる」は、値上げではなく「関係の深化」だ
 
ここで多くの経営者が誤解するポイントがある。
 
上顧客への集中と聞くと、「値上げして富裕層を狙う」という話に聞こえる人がいる。そうではない。
 
上顧客とは、高い商品を買う人のことではなく、あなたのブランドを信頼し、繰り返し来てくれる人のことだ。
 
彼らの客単価が高いのは、高い商品しか買わないからではない。何度も来てくれるから、年間のトータル購買額が積み上がるのだ。
 
ということは、顧客単価を上げるために必要なのは「値上げ」ではなく、「来店回数を増やす関係づくり」と「一度の来店での提案の質を上げること」だ。
 
では、どうすれば上顧客と「深い関係」を作れるか。
 
答えはシンプルだ。「見る」ことから始める
 
その人が最後に来店したのはいつか。何を買ったか。どのスタッフが対応したか。今の季節、どんなアイテムを必要としているか。誕生日はいつか。
 
これらが「見えている」状態になれば、スタッフは「先日買われたジャケットに合うパンツが入りました」と、ピンポイントで連絡できる。
 
顧客が「自分のことを知ってくれている店」に感じる体験が、ロイヤルティを作る。
 
 
「見える化」は技術の話ではなく、経営の意思の話だ
 
ここまで話すと、「CRMツールを入れれば解決するんですよね?」という反応が出る。
 
正直に言う。ツールは手段だ。本質ではない。
 
上顧客が「見えていない」会社の多くは、ツールがないのではなく、上顧客を見ようという経営の意思がなかっただけだ。
 
POS データはある。メルマガの開封率もある。EC の購買履歴もある。でも、それらをつなぎ合わせて「この人はうちの上顧客だ」という認識に変換しようとしていない。
 
データが散らばっているのではなく、データを「顧客の顔」に変換する意志と仕組みが欠けている。
 
今、このプロセスにAIが入り始めている。購買パターンの分析、離反リスクの予測、個別の提案シナリオの自動生成ーー技術的には実装可能な段階に来ている。
 
ただ、AIが活きるのも「上顧客を見よう」という経営判断があってこそだ。経営の意志なき技術導入は、どれだけ精緻なツールを入れても機能しない。
 
 
今回の問いかけ
 
あなたの売上上位20%の顧客は、今、あなたの会社に満足しているか?」
 
名前を言える状態にあるか。彼らの最近の来店頻度が変化していないか。もし「最近来なくなった」という上顧客がいるとしたら、それは競合に取られた可能性が高い。
 
新しい客を100人集めるより、離れかけている上顧客を1人つなぎとめる方が、経営へのインパクトはずっと大きい。
 
次回は、この「上顧客の見える化」をどのように設計するかーー仕組みと優先順位について書く予定だ。

この記事は、L-DXが2020年に発行した「With & After Corona 時代の進化戦略レポート」(平山真也著)の知見をもとに、現在のアパレル経営へのインプリケーションとして再構成したものです。

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