「安くていいもの」では、もう売れない。エモ消費時代に生き残るブランドの条件
あなたのブランド、なぜ買ってもらえているか、本当に分かっていますか?
突然ですが、一つ質問をさせてください。
あなたのブランドが選ばれている理由を、今すぐ言語化できますか?
「デザインが良いから」「品質が高いから」「コスパがいいから」ーーそう答える方も多いと思います。でも少し立ち止まって考えてほしいのです。その理由は本当に「あなたのブランドだけ」が持つものでしょうか?
デザイン、品質、価格。今やこれらの要素は、競合他社も同じレベルで提供できる時代になっています。ZARAはトレンドをいち早く落とし込み、SHEINは圧倒的な低価格を武器にする。ユニクロは品質と機能性で市場をリードする。この中で「普通にいいブランド」が埋もれていくのは、当然の帰結です。
では、生き残るブランドは何が違うのか。私はその答えを「エモ消費」という概念に見出しています。
「モノからエモへ」消費の変化を整理する
消費の変遷を振り返ると、大きく三つのフェーズがあります。
かつての高度経済成長期、人々はモノを欲しがりました。冷蔵庫、テレビ、車。「所有すること」が豊かさの証しであった時代ーーこれが「モノ消費」の時代です。
やがて物質的な豊かさが満たされると、人々の関心は「体験」へと移行します。旅行、グルメ、ライブ。「どんな経験をしたか」が価値になった「コト消費」の時代です。
そして今、私たちは第三のフェーズに入っています。それが「エモ消費」です。
エモ消費とは何か。一言で言えば、「感情が動いたからお金を払う」消費行動です。そのブランドを纏うことで自分がどう感じるか、そのブランドのストーリーにどれだけ共感できるか、そのコミュニティに属することで何を得られるかーーこれらの「感情的な理由」が購買の決め手になっているのです。
モノでもなく、体験でもなく、感情。これが現代の消費の核心です。
「安くていいもの」戦略の終焉
「うちは品質の割に値段が安い」。これはかつて最強の訴求でした。でも今は違います。
消費者は価格比較ツールを使いこなし、レビューを読み、SNSで口コミを確認します。「安くていいもの」はすぐに可視化され、すぐに比較され、すぐに飽きられます。価格競争に踏み込んだ瞬間、あなたのブランドはコモディティの海に沈んでいく。
より根本的な問題があります。人がお金を払う瞬間には、必ず「感情」があります。
嬉しい、かっこいい、このブランドを応援したい、このアイテムを持っている自分が好きーー買い物の背後には必ずこうした感情の動きがあります。価格の安さは「お得感」という感情を刺激しますが、それは瞬時に消費されます。他にもっと安いものが出た瞬間、その感情は消える。
一方、「このブランドには自分のことを分かってくれている感がある」「このブランドを着ると自分らしくいられる」という感情は、簡単には消えません。それがリピート購入を生み、ブランドへの愛着になり、口コミへと転化します。
ブランドとは「感情の器」です。その器に何を込めるかーーこれがブランド設計の本質だと、私は考えています。
エモ消費を設計している企業がやっていること
では具体的に、エモ消費を上手に設計しているアパレル企業はどんなことをしているのか。現場を見ていて気づく特徴を挙げます。
ブランドの「なぜ」を発信し続けている。製品の説明ではなく、なぜそれを作るのか、何を大切にしているのかを語っている。創業者のストーリー、素材へのこだわりの背景、職人との対話ーーこれらは「このブランドは本物だ」という感情的確信を生みます。
SNSを「共感の場」にしている。投稿するのは商品写真だけではありません。スタッフの日常、お客様の着こなし、商品が生まれるまでのプロセス。「売る」のではなく「見せる」。その積み重ねが、フォロワーを感情的なファンに変えていきます。
顧客との接点を「体験」として設計している。試着の体験、パッケージを開ける瞬間、アフターフォローのメッセージーーこれら一つひとつが感情を動かすタッチポイントです。ECならではの温かみを、あえてアナログな手書きカードで表現しているブランドも少なくありません。
上顧客との感情的なつながりを特別に育てている。売上の80%を生み出す上位20%の顧客ーーいわゆるロイヤルカスタマーは、価格ではなく感情でブランドを選んでいます。この層に対して、特別感のある体験(先行案内、限定オファー、スタッフからのパーソナルな連絡)を提供しているブランドは、その絆が強固です。
データとエモは矛盾しない
「感情を大切にしましょう」という話をすると、「それって感覚論じゃないですか?データで何が分かるんですか?」という反応をいただくことがあります。
でも、私はその逆だと思っています。データこそが「顧客の感情」を理解する最強のツールです。
購買データを分析すると、「この顧客は価格セールのときだけ買う」「この顧客は新作が出るたびに必ず購入する」「この顧客は特定のスタイルカテゴリだけを繰り返し買う」といった行動パターンが見えてきます。これは単なる数字ではありません。顧客がどんな感情でブランドと接しているかを示す手がかりです。
「お得感で動く顧客」と「世界観に共感して動く顧客」とでは、コミュニケーションの設計がまったく違います。前者に値引きをすれば買ってくれますが、値引きがなければ離れます。後者はブランドへの愛着が深い分、価格変動に鈍感で、むしろ「あなただから」という特別感に反応します。
どの顧客がどんな感情でブランドを選んでいるか。それをデータで理解し、それぞれに合ったコミュニケーションを設計するーーこれがDXの真価だと、私はL-DXとして日々の支援を通じて実感しています。
エモ消費の時代において、データとクリエイティビティは対立しません。データで感情を理解し、クリエイティビティで感情を動かす。この両輪があって初めて、持続的に「選ばれるブランド」になれるのです。
まとめ:今日からできる一つのこと
「エモ消費」は、特別な資本があるブランドだけの話ではありません。
今日からできることが一つあります。
あなたのブランドの上位20%の顧客ーー直近1年で最も購入金額が高い人たちを、CRMやECのデータから抽出してみてください。その人たちは、どんな商品を、どんなタイミングで、どんな頻度で買っているか。セールで動いているか、新作で動いているか。
その答えに、あなたのブランドが今の顧客にどんな感情を提供しているかのヒントが隠れています。
「安くていいもの」を作ることは、もはや前提条件に過ぎません。その先に、どんな感情を届けるかーーこれがこれからのアパレルブランドが問い続けるべき問いです。
感情を設計すること。それが、選ばれるブランドへの最短経路だと、私は信じています。
代表取締役社長 Chief Executive Officer 平山真也